建築した当時は建築基準法に則って建てられた中古物件でも、現行の建築基準法には適合しないものがあります。それを「既存不適格物件」と呼びますが、不動産投資用に購入するのは問題ないのかが気になります。そこで今回はこの既存不適格物件の特徴と、不動産投資用に購入するうえでのメリットとデメリットを解説します。
既存不適格物件とは?
「既存不適格物件」とは現在の建築基準法に違反している物件のことです。建築当時の法律では合法ではあったものの、建築基準法の改正などにより現在は法律や条例に適合しなくなった物件を指します。
建築時には適合であったことから違法建築とはみなされず、保有するうえでは問題ありません。既存不適格物件には具体的に次のようなものがあります。
建ぺい率に違反している
建ぺい率は敷地面積に対する建築面積の割合のことです。1971年以降の建築基準法の改正により建築当時よりも現在の建ぺい率が低くなることで、既存不適格となるケースがあります。
この場合、建て替えをする際には元の規模の建物に建て直すことはできません。そのままで使用するのであれば問題はありませんが、築年数が古い物件となると賃借人が付きにくくなります。
リフォームは可能ですが、建て直しの際には減築が必要です。
容積率に違反している
容積率は敷地面積に対する建物すべての床面積の割合のことです。1971年以降の建築基準法改正により、容積率がオーバーした建物は既存不適格物件となります。
容積率をオーバーしている建築物はリフォームにも制限がかかりますが、減築することは可能です。倒壊のおそれがあるような古い物件は解体するか、減築して建て直す必要があるでしょう。
再建築不可物件
昭和25年から制定された接道義務を満たしていない物件は「再建築不可物件」として建て直しができないので注意が必要です。
接道義務とは、建築基準法上の道路に敷地が2メートル以上接していないと建物を建築できないというものです。この条件を満たしていない土地に建てられた建築物を解体してしまうと、あらたに建物を建てることができません。
この場合、道路の幅員が4メートル以上あれば接道義務を満たすことが可能なので、敷地をセットバックして道路の幅員を4メートル以上にすることで、再建築は可能となります。
既存不適格物件は住宅ローンを組めるるのか
既存不適格物件を住宅用に購入する場合、住宅ローンを組むことはできるのでしょうか。既存不適格物件はさまざまな規制があるため、割安で購入できる利点があります。
結論から言えば、現行の建築基準を満たしていないため住宅ローンを組むのは難しいものです。たとえ住宅ローンが組めるとしても、その担保価値は相当に低く評価されるため、融資額や返済期間において不利な条件となるでしょう。
また住宅ローンの審査を通すためには、建築当時は違法性がなかったことを証明する必要があります。そのため、建築確認申請書や確認済証、検査済証の提出が必要です。これらの書類が紛失している場合には、役所で建築台帳記載事項証明書を取得する必要があります。
既存不適格物件は建て替えができる?
既存不適格物件は築年数が相当に古いため、不動産投資で使用するためには建て替えが必要になるかもしれません。
基本的には建物を解体し、現行の建築基準法に則った設計であれば建て替えは可能です。その場合、もとの建物よりも減築するケースが多いでしょう。
ただし接道義務を満たしていない「再建築不可物件」の場合には、そのままでは建て替えはできません。敷地が幅員4メートル以上の道路に接していなければ、建物は建てられないからです。
その場合には敷地をセットバックして道路の幅員を広げることで、あらたに建築することができます。
既存不適格物件は融資がおりるのか
既存不適格物件は割安で購入できるため、賃貸運用できるのであれば不動産投資用に検討したいものです。しかし気になるのが、はたして融資はおりるのかということでしょう。
銀行などは、このような現行の法令に適合しない不動産に対する融資は厳しい対応をしています。耐震性の問題もあり、たとえ建築当時は合法であったとしても、現行の法律を優先するために融資がおりないケースが多いものです。
そのため基本的に既存不適格物件を購入する場合には、現金で取得することになるでしょう。
既存不適格物件の調べ方
既存不適格物件は売却する際に売主にその旨を伝える必要があります。しかし購入を検討している中古物件が既存不適格物件なのか、あるいは建築当時でも違法建築だったのか気になることもあるでしょう。
購入を検討している不動産が既存不適格物件なのかどうかは、次のように調べることができます。
確認申請図書を確認する
対象とする建築物が既存不適格物件なのかどうかは、まず「確認申請図書」で確認できます。確認申請図書(建築確認申請書)とは、新築あるいは増築時に建築物が建築基準法と条例に適合しているのかをチェックしてもらうための書類です。
確認申請図書は正・副の2部を作成して、役所や民間の指定確認検査機関が確認したあとに副本が返却されます。この副本を「確認済証」と呼びます。副本は建物が竣工してから建築主に引き渡されることになっています。
そのため、売主が確認申請図書の副本を紛失していたら、入手できないことになります。
建築計画概要書を確認する
確認申請図書を入手できない場合は、市役所などで対象物件の建築計画概要書を入手しましょう。これは建築確認申請と同時に提出する書類なので、建築確認がおりた物件の概要となります。
つまり、この建築計画概要書があれば当時の建築基準法に適合した設計であることが確認できます。建築計画概要書は市役所で誰でも閲覧できます。
既存不適格物件のメリット
既存不適格物件で不動産投資をするメリットに次のようなものがあります。
安い価格で購入できる
既存不適格物件は現行の建築基準法に適合しないため再建築などで制約があることから安く売却されます。そのため、安く購入して賃貸運用できるメリットがあります。
不動産投資は収益性を高めるために、物件をいかに安く購入するかが重要です。もちろん賃借人がついて家賃収入が得られることが前提ですが、運用コストを抑える意味でも取得価格が安いというのは利点です。
リフォームは可能
既存不適格物件は建て直しに関しては制約がありますが、内装や設備を替えるリフォームは可能です。賃借人がつきやすいように設備も新しいものに交換すれば、家賃収入も確保できます。
購入物件とリフォーム費用の総額が通常の中古物件よりも安くなるのであれば、既存不適格物件は不動産投資に最適と言えるでしょう。
高利回りが狙える
購入コストを抑えて賃借人がつき、それなりの家賃収入が得られれば収益性は確保できます。場合によっては高利回りが狙える既存不適格物件もあることでしょう。
融資がつくかどうかという問題もありますが、購入コストを抑える形で取得できれば、高収益物件として運用できるのはメリットと言えます。
既存不適格物件のデメリット
一方で既存不適格物件が不動産投資には不向きな理由となるデメリットを説明します。
既存不適格物は資産価値が低い
既存不適格物件のデメリットに資産価値の低下があります。特に1981年6月1日前に建築された旧耐震基準の建物は、現在の耐震基準を満たさないことで資産価値は低く見積もられます。
しかし再建築ができない物件の場合には建て替えが難しいことから、資産価値の下落は余儀なくされます。ある程度は賃貸運用したあとに売却するのであれば、どの程度の価格で買い手を見つけることができるのかを考慮しなければなりません。
出口戦略が立てにくい
既存不適格物件は銀行などからの融資を受けにくいので、買い手がつきにくいのがデメリットとなります。そのため売却を視野に入れた出口戦略が立てにくくなります。
自分でも不動産投資のために購入する際には、融資を受けるのに苦労すると思います。同様に売却する際にも、買い手が融資を受けにくいため既存不適格物件を避けることになります。
ただしリフォームを施すことで賃借人をつきやすくし、物件価値を高めることは可能です。投資用物件として収益性を高めることができれば、融資を受けられるようにすることは可能です。
都道府県知事から是正命令を受けることも
都道府県知事などの特定行政庁は「建築基準法10条3項」において、保安上危険と判断する既存不適格建築物は除去修繕あるいは使用制限などを命じることができます。たとえば耐震性能不足による倒壊の危険性がある場合、勧告や是正命令を受けることがあるということです。
勧告や是正命令は必ず行われるわけではありませんが、指摘を受けたならば対処しなければなりません。そのための費用が発生することから、採算が合わないケースもある点に注意が必要です。
まとめ
既存不適格物件は現行の建築基準法には適合しませんが、建築当時には違法性がないことから所有することには問題がありません。高利回りが狙え、ライバルも少なく買い付けもしやすいのですが、出口戦略が取りにくいため、建物の寿命まで持ち続けて最終的には更地にして売却出来る様な物件が向いていると言えます。